保存活動

住民たちによる水郷の商都佐原の町並み保存とまちづくり(平成16年)

1.利根川舟運を背景とした由緒あるまち

蛇行して流れる小野川と町並み

坂東太郎と呼ばれる大河利根川の支流である小野川のおかげで、佐原は江戸時代より舟運の拠点としてたいへん栄えました。農業を主産業とするこの土地では、酒・醤油・味噌などの醸造業も盛んでした。全国から集まる物資のみならず、人と文化の交流地となり、大都会となったのです。 このときに、格子が入った町屋や白壁の倉が立ち並ぶ町並みが形成されました。第二次世界大戦前の古写真を見ると、通りには大勢 の人があふれ、いかにまちが賑わっていたかが伝わってきます。 全国を歩いて測量し、初めての日本地図を制作した伊能忠敬の旧宅が小野川沿いに残され、近年ますます熟年世代の注目を浴びるようになっています。

ジャージャー橋で遊ぶ子供たち


京都や神戸、高山のような名だたる歴史的な都市とともに、佐原も建築歴史の専門家たちにより調査されました。 小野川と香取街道が交差する忠敬橋を中心とし、歴史的な建物が集中して残る十字型の範囲の建物が注目されたのです。 しかし、当時佐原は大きな商圏を抱え 、欧米スタイルの生活を追い求めていましたので、 過去の遺産を振り返り見る必要性がなく 、町並み保存には至りませんでした。 昭和56 年に再度町並み調査が行われた時にも、まだ状況は変わっていませんでした。ところが1980 年代後半のいわゆるバブルの時代に竹下内閣がふるさと創生資金という名の 補助金の使い道を地元に問うたところ、伊能忠敬あるいは佐原の町並みに 関すること が上位にあがり身近な町並みを再評価しようという動きが生じました。

2.待ち続けて訪れた町並み保存の気運由緒あるまち

三菱館で観光案内をする会員


平成3年に「江戸時代から昭和 初期の歴史的文化を未来の子孫に残す」ことを理念とし、「佐原の町 並みを考える会」が設立されまし た。その後、小野川も町並みに欠 かせない要素であることから、「小野川と佐原の町並みを考える会」 に名称が変更されました。 それぞれの仕事が終わった後に建築に関する勉強会を重ねながら、考える会会員たちがまず最初に手がけたのが、旧市街地中心部の建物の悉皆調査でした。明治25 年(1882)に市街地中心部は大火を経験したため、ほとんどの建物はその後建てられたものです。商店の多くは正面に看板を立ち上げているので普段は気づかないのですが、地図上で調査建物の建築年代を色分けしてみると、江戸・明治・ 大正・昭和初期までに建てられた建物が、旧市街地を埋め尽くしていることが明らかになりました。 これらの建物を修理すれば、昔懐かしい町並みを復元できることがわかったのです。 この調査から得た情報をもとに作成した「佐原市佐原地区町並み 形成基本計画書」が佐原市長に提出されました。その結果、平成6 年に佐原市歴史的景観条例が制定され、翌年都市計画の部署内に町 並みの建物の修理を担当するまちづくり推進室(現まちづくり推進 班)が設けられ、官民一体となった町並み保存の体制が確立された のです。 以来行政の補助事業により、町並み内の伝統的建造物の修理や町並みに調和する建物の新築が行われ、だんだん町並みの往時の姿がよみがえってきています。

3.町並み保存と観光案内

恒例となった小野川清掃行事

町並みを保存するためには、地元住民たちの同意が必要となり ます。そこで、考える会が主体と なって説明会を行い、地区住民の 高い同意率が得られました。5年の努力が実り平成8年には、めでたく関東地 区初の 重要伝統的建造物群保存地区の選定を受けることができ ました。佐原の町並みには小野川の景観が重要、銚子石の護岸とゆったり流れる小野川の流れを保全するために、会員自ら小野川に入りの川底や護岸の清掃活動を始めた。効果が表れ、以後恒例の行事となっています。 また、町並み保存先進地 の視察研修や町並み講演会もほぼ毎年開催しています。これらの行事の予告や報告、 町並みに関連するお知らせは、「佐原の町並みかわら版」というニュースレターで伝えられています。

町並みのランドマーク赤レンガの三菱館


さて、町並みの東西の幹線道路である香取街道には、三菱館と呼 ばれる赤レンガの建物があります。 大正3年に川崎銀行として建てられた建物は、その後三菱銀行とな り、平成元年まで使われていました。 銀行機能移転のために不要と なった建物の解体撤去のうわさが流れると、地区のランドマークで ある建物を失う ことはできないと、保存運動が起こりました。 建物は銀行から市に譲渡され、考える会の本拠地となり、外来者 を暖かく迎える観光案内所となりました。ボランティアによる町並 み案内は、佐原っ子ならではの土地の歴史や 建物解説が聞けると、とても好評です。

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4.ますます広がる考える会活躍の場

揃いの半纏を着た町並み観光案内


ゆっくりと生活を楽しむという最近の静かな流行の中で、 落ち着きを求めて佐原を訪れる人たち が増えてきています。考える会は、観光客のためのまちづくりを進めながら、地元の人たちの暮らしを豊かにする環境も同時に整えています。対象とするのは、町並みの 建物だけではありません。 小野川にかかるジャージャー橋の架け替えの折には、その構造について相談にのったり、町並みの景観を台無しにしていた忠敬橋上の歩道橋の撤去にかかわったり、地元の人たちの日常生活に関わる範囲でも数々の実績を残しています。 現在小野川沿いでは、町並みの景観を向上させるために電線の地中化が進められています。考える会は住民側に立ち、この事業に対して地区住民の同意を得られるように行政に協力しています。あわせて歩行者が安心して歩けるように、路上駐車や交通規制の対策も 図っています。また、町並みに設置されている初期消火のための消火栓を、非常時にちゃんと使えるように地区住民たちを対象とする 防災訓練も定期的に実施しています。

町並み講演会町並み勉強会
ナガバコウホネ

あるいは昨夏は、小野川に自生する千葉県最重要植物、長葉河骨(ナガバコウ ホネ)の保護のための会議を主催し河川の自然環境保護にも貢献して います。佐原には町並み以外にも観光資源が多く散在しています。 香取神宮に代表される古社寺、 水郷の自然、緑深い山や田畑、利根川の雄大な流れ。これらを一体として佐原の魅力を訴え、日本の 宝として誇れる本物志向のまちづくりを目指しています。成田空港に近い立地から、世界に向けた日本文化への窓口としての役割も期 待されます。

視察研修

住民たちによる初期消火の防災訓練

安定した活動が続けられるように考える会は、平成16 年にNPO 法人格を取得しました。 小野川と佐原の町並みをより美しい姿で次世代に伝えられるよう、 いっそう活動の幅が広がってきています。 これからは考える会の活動を通して眠っている資産が掘り起こさ れ、観光客の散策エリアが拡大されようとしています。このような 人の流れの変化が、徐々に地元商店の活性化にも繋がっていくこと が待ち望まれています。